新年の初エントリでも書いたように、2017年は認知療法・認知行動療法を実践していくという目標を掲げました。すでにスモールスタートで取りかかっているのですが、自分の頭を整理するためにも、認知療法・認知行動療法の概要についてまずは書いていきたいと思います。

なお、私は精神科医でもなんでもありません。ただの一治療者です。公的機関の発表や精神科医が書いた書籍などを元に情報をとっていますが、正確でない点、事実とは異なる点もあるかもしれませんので、そこはどうかご留意願います。

なお、私は書籍を購入し、認知療法・認知行動療法を学んでいます。外来という手もありますが、経済的な観点から、書籍ベースの実践にしました。取り急ぎ購入した書籍は以下の2冊です。


●はじめての認知療法 (講談社現代新書)

www.amazon.co.jp/dp/4062881055

●こころが晴れるノート―うつと不安の認知療法自習帳

www.amazon.co.jp/dp/442211283X


大野裕先生は、認知療法・認知行動療法の第一人者で、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター所長を努められており、適応障害を治療されている皇太子妃雅子の主治医として知られております。

さて、ここから本題です。



1 認知療法・認知行動療法とは

まず、認知療法・認知行動療法とは何かを定義しなければなりません。認知療法・認知行動療法について書いてあるサイトは五万と見つかりますが、発信者の信頼性の観点から、基本的には厚生労働省のホームページを見ていただくのが一番と思います。厚労省のHPをざっくりとまとめたのが以下です。

「認知療法・認知行動療法とは、人間の気分や行動が認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受けることから認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された精神療法です」(厚労省抜粋)

厚労省のホームページでは、うつ病、強迫性障害、社交不安障害、パニック障害で治療者用のマニュアルが分かれていますので、具体的に精神科医から病名を診断されているのであれば、該当部分もご覧いただくのが良いと思います。


●うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル(厚生労働省)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/01.pdf

●こころの健康(厚生労働省)※不安障害の認知療法・認知行動療法のマニュアルはこちら

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/


ただ、精神科医の中でも、具体的な病名を患者さんに伝えない医師もいます。というのも、身体的な病気と違って、腫瘍や傷などの「目に見える」判断材料がないので、安易に病名をラベリングするのは危険だからです。例えば、一言に「抑うつ状態」と言っても、それがうつ病なのか不安障害なのか自律神経失調症なのか、あるいは更年期障害なのかわかりません。これらの病気の症状で「抑うつ」が存在するからです。また、下手に病名を患者さんに伝えることで、患者さんがあれこれインターネットや本でその病気について調べて、不安になったり、新たな症状を発出することになっても意味がないからです。病名がわからないのは不安ですが、要は症状が消え去れば良いだけなので、そこまで病名に固執する必要もないのではと私は最近考えています。とりあえずですが、病名が告げられていない人は「うつ病」のマニュアルを読むのでいいのではないでしょうか。


●なぜ精神科や心療内科では、病名や診断が告げられないのか(医者と学ぶ「心のサプリ」)

http://mentalsupli.com/facilities/hospital/inform/


私たちは普段様々な事実に接し、それについて喜怒哀楽の感情などで反応しています。良く例えられるのが、「コップの水」の話です。コップの中に水が半分入っていました。ある人は「まだ半分も水がある!ラッキー!」と思いますし、ある人は「もう半分しか水がない!どうしよう!」と思います。「コップ半分に水が入っている」という事実は一定ですが、それに対する感情の反応は人それぞれです。これが認知(ものの考え方や受け取り方)です。

こんなもんは生まれ持った性格や育ってきた環境によって人それぞれ違うのは当たり前ですし、同じ人でもその日のコンディション等によって受け取り方が変わるでしょう。それはそれで何の問題もありません。100人いたら、100通りの受け取り方があっていいのだと思います。

問題なのは、精神疾患にかかっている場合、あるいは精神疾患ではなくても高ストレス状態にある場合、多くの事実に対して、マイナスの反応をしてしまうことです。私の場合の具体例だと、仕事でミスを指摘されると(ミスではなくても、もっとこうした方が良いんじゃない?レベルのサジェスチョンを受けると)、「また注意されてしまった、自分はダメな人間だ。」というマイナス・負の感情反応をしてしまいます。他方、人によっては、「アドバイスいただけてラッキー、これでもっと良くなる」と考えます。こうしたマイナスの反応は仕事場だけではなくあらゆる場所で発生し、あるいは布団の中で脳内で発生し、マイナス・負が蓄積していきます。そうすると、どんどん悲観的になり、あらゆることが怖くなり、地蔵のように身体が動かなくなって、それがまたマイナス・負の感情を呼ぶという悪循環に繋がります。

感情は身体症状に現れます。うつ病やストレスを起因とする身体症状です。私の主治医はストレス反応とか、自律神経症状と呼んでますね。通常時であれば、音楽を聴いたり、カラオケに行ったり、運動をしたりしてストレスを解消するのですが、沼にがっぽりとはまってしまうと、抜け出せません。抜け出そうともがけばもがくほどはまっていく底なし沼の様です。精神症状に加え、頭痛、めまい、喉の渇き、食欲不振(亢進)、不眠(中途覚醒・早期覚醒)、胸部圧迫感、動悸、胃腸の痛み、手足のしびれ、背中の痛み、といったように、数え出したらキリの無い症状に襲われます。こうなったらもう自分ではどうしようもないですね。(特に、私は胸部圧迫感が酷いです。休暇明けの出勤前とか、出社に対するストレスから、かなり胸が苦しいです。年末年始明けは特にきつかった・・・。)

でも、冷静になって考えてみると、「また注意されてしまった、自分はダメな人間だ。」という反応って正しいんでしょうか。正しいという言い方は変ですね、その反応って現実的(その通りである、合理的、間違いない)なものなのでしょうか。もしかすると、極端で根拠のない自分勝手な思い込みなのかもしれません。

このような時に、客観的に現実を見つめ直し、自分の主観がリーズナブルなものなのかについて再考し、問題に対処したり解決したりできるような現実的な考え方に変えていくことが、認知療法・認知行動療法の基本的な考えになります。

なお、うつ病に対する認知療法・認知行動療法は、2010年に健康保険の適用対象となっています。効果が認められることから、国のお墨付きの治療法として確立されたんですね。他方、不安障害等についての健康保険の適用はまだ実装されていないみたいです。


●不安障害に対する認知行動療法 保険適用化への動き(OCD研究会)

http://ocd-net.jp/column/c_108.html



2 自動思考とは

認知療法・認知行動療法を行う上で一番のポイントとなるのは、「自動思考」だと思います。「現実の受け取り方」や「ものの見方」を認知といいますが、認知には、何かの出来事があった時に(なくても出来事を思い出して脳内で勝手に)瞬間的に浮かぶ考えやイメージがあります。それが「自動思考」と呼ばれるものです。この「自動思考」によって、いろいろと気持ちが動き、行動することになります。

「①出来事→②自動思考→③気分・行動」といった流れです。

私のケースで考えると、例えば仕事で上司や同僚から、「ここをこうした方が良いと思います」と言われた時(①出来事)に、「また注意されてしまった、自分はダメな人間だ。」「周囲は仕事ができない人間だと思われている。嫌われている。」みたいな自動思考(②)が出てきて、悲しい気持ちになり、生産性が落ちて「地蔵」(デスクやその場からから動けない、フットワークが鉛のように重い)になったり、ストレス反応で身体症状が出たりします(③気分・行動)。ここで注目すべきは、この②の自動思考は、私自身が勝手に反応している感情なんですね。ファクト(事実)としては、上司や同僚から、「ここをこうした方が良いと思います」と言われた、だけです。このファクトに対して、②の自動思考を生み出し、それが③の気分・行動・身体症状に繋がっています。ここで冷静に立ち止まって、②の自動思考は現実に即したリーズナブルなものかを良く見ていく必要があるんです。

私たちは、健常時・健康時は、基本的には現実に即した自動思考になっています。ただ、高ストレス環境下であったり、うつ状態の時は、この現実に即した自動思考というのが出来なくなってしまいます。そうすると、誤った自動思考により、気分・行動に悪影響を及ぼします。これを繰り返し続けることにより、ますますぬかるみにはまっていきます。そのぬかるみから抜け出せなくなると、セルフコントロールができなくなり、抗鬱薬や抗不安薬に頼ることになります。(決して、薬に頼るのが悪いことではありません。私も2年近く、サインバルタ、リーゼ、ミラドールを服用していました。)

この「誤った自動思考」を、現実的かつ合理的な「適応的思考」にその都度その都度直していくのが「認知療法・認知行動療法」の実践の本質だと思います。そのため、陥りがちな「非」現実的な自動思考をあぶり出すには、以下のポイントを確認することが重要です。一緒に確認しましょう。

なお、自動思考と気分(感情)の違いですが、気分(感情)は、一言で言い表せるものです。例えば、悲しい、憂鬱だ、不安だ、むかつく、など。他方、自動思考というのは、私の例で書いた「また注意されてしまった、自分はダメな人間だ。」「周囲は仕事ができない人間だと思われている。嫌われている。」といったような、センテンスで表現できるものです。


(誤った自動思考を見つけ出すヒント:大野裕『はじめての認知療法』抜粋)

(1)思い込み・決めつけ

自分が着目していることにだけ目を向けて決めつける考え。

(2)白黒思考

ものごとをすべて白か黒かという極端に割り切ろうとする考え。

(3)べき思考

「こうすべきだ」「あのようにすべきではなかった」という考え。

(4)自己批判

何でも自分の責任だという考え。

(5)深読み

相手の気持ちを一方的に推測した考え。

(6)先読み

自分で悲観的な予測を立てる考え。


私のケースを見てみます。

「また注意されてしまった、自分はダメな人間だ。」

⇒「自分はダメな人間だ」というのは、良い悪い(ダメ、OK)のレッテルを貼ってしまう(2)白黒思考、注意されたことを自分の責任だと真正面から受け止めてしまう(4)自己批判、などが含まれていると思います。

「周囲は仕事ができない人間だと思われている。嫌われている。」

⇒これは、周囲にどうこう思われているんだと勝手に解釈する(5)深読み、注意された1点にのみ目を向けて決めつける(1)思い込み・決めつけ、などが含まれていると思います。

これらの自動思考を、ポイントに注目しつつ、現実的な思考に直していくのが具体的な作業になります。この実践の仕方はまた追ってご紹介したいと思いますが、肝心なのは、これらの自動思考がやっぱり当たっている場合もあるということです。自分の問題、自分の責任のこともやはりあると思うんです。こういう場合に、60%は誤った自動思考だ、40%は正しい自動思考だ、だから40%を改善するために努力しよう、という風に現実に即したアプローチをしていく必要があるということです。すべての自動思考を「誤った自動思考だ」と判断するのも危険です。適応的思考というのは、現実を冷静に直視することにほかなりません。



3 スキーマ

ここまで長々と書いてきましたが、「スキーマ」についても触れないわけにはいきません。認知療法・認知行動療法を行う上で重要な「自動思考」について書きましたが、ではなぜ同じ事象・事実に対して、我々は異なった見方をするのでしょうか。

自動思考は、同じ状況にいれば誰でも同じようにするのかというと、決してそんなことはありませんね。コップの水の例えの話でしたとおりです。自動思考には個人差があります。生まれつきの性格の違いはもちろん、育ってきた家庭環境、今までしてきた経験などが人によって異なるように、自動思考も人によって異なります。この自動思考の差違を生み出しているのが、その人の心の癖、心の法則です。これを「スキーマ」と呼びます。

極端な話、後ろ向きなスキーマを持っている人は、さまざまな出来事に対して悲観的な自動思考を生み出しているでしょうし、前向きなスキーマを持っている人は、楽観的な自動思考を生み出しているでしょう。これは、どちらが良い悪いかの話ではありません。自動思考が楽観的だろうが悲観的だろうが、それよりも、「現実に沿っている」必要があるのです。

往々にして、鬱状態、高ストレス状態にはネガティブな自動思考が量産されており、それが気分や行動、果てには身体症状にまで影響を及ぼします。認知療法・認知行動療法において、この自動思考を現実的なものに変えていく訓練を繰り返していくのは、スキーマ自体を現実的なものに変えていく挑戦の行為に他なりません。

自分のスキーマに気がついていれば、さまざまなストレスを乗り越えやすくなるでしょうし、スキーマを現実的なものに変えることで、生み出される自動思考も現実的なものに変えることができます。ただし、スキーマをいきなり変えるのは無理です。誤った認知、誤った自動思考を繰り返し繰り返し修正していくプロセスにおいて、少しずつ自分のスキーマを理解し、変えていく努力をするのです。



次回以降は、この認知の誤りを修正していく具体的なアプローチについて、自分のやっていることをベースに紹介していきたいと思います。