新型コロナウイルス感染拡大防止のため、不要不急の外出を減らすことで、読書する時間が増えた。


晴耕雨読のような生活は、俺の性格にとても合っていて、人との接触を減らしたり、外出したりすることは全く苦にならない。陰キャ・バンザイである。




そんな中、岩田健太郎氏の『新型コロナウイルスの真実 』を読んだ。


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神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授である岩田氏は、感染症の世界では知らない人はいないと言われるほどの人物であり、感染症専門医の第一人者である。


私の友人の医者に聞いたところ、医師の世界でも非常に有名な人物であるとのことだ。認知行動療法学や精神医学で例えを出すとすれば、一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長の大野裕氏などのような存在なのだろうか。


世間に名前が広く知られるようになったのは、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」で新型コロナウイルスの感染者が出たとき、岩田氏がダイヤモンドプリンセス号に感染症対策のため(※対外的にはDMATとして)入船した後、日本政府の感染症対策の稚拙さを広く世界に発信したYouTube動画がバスったからである。







新型コロナウイルスの動きをフォローするにあたって、同氏の情報発信には注目していた。



そして、今回の著書の上梓である。



本書のあとがきの日付が3月23日になっているので、緊急事態宣言の発出等の動きよりも前の日付だが、本書には感染症への向き合い方、言ってしまえば、不安との向き合い方も書かれており、それはあまり感染者数の動向とは関係がない。


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※3月23日は指数関数的に感染者が増え始める前だが、岩田氏は当然この上昇を予期していただろう。




このような「現実の向き合い方・受け止め方」については、認知行動療法に通じるところがあり、メンタルヘルスにも効果的なインサイトだったので、「鬱に効く本」のコーナーで紹介することにした次第である。


岩田氏は、何よりもファクトと論理を重視している。科学者ならあたりまえなのだが、現実の事実に対してとても真摯なのだ。


俺が、言ってしまえば脳のバグで、不安や悲観を勝手に脳内で膨らませて精神的に身体的に辛く感じているときは、現実の事実を見れていないときが多い。認知が歪んでいるときが多い。また、他者の課題などの自分でコントロールできないことを悩んだりしていることが多い。


だからこそ、科学者のように現実をありのままに見れるようになりたいと考える。考えても意味のないことはバッサリと切り捨てられるようになりたいと考える。


また、日本のムラ社会の伝統的マインドセットに対する痛快な合理的記述も見られたので、合わせて興味深く読むことができた(岩田氏は日本のメンタリティに相当フラストレーションが溜まっていると思われた)。




本書を読んで、学びを得たポイントをいくつか紹介したい。






●大切なのは、正しく判断すること


岩田氏は、新型コロナウイルスの各論に入る前に、まずは情報を集め、知識を身につけ、事実と向き合うことの重要性を強調する。まずは、感染症の原理原則を押えなければならないということだ。


適切な知識を身に付け、日々変化する状況の中でも根拠のない恐怖、あるいは根拠のない安心に惑わされずに事実を見据えて、その都度「正しく判断」できるようにすることが重要という。


例えば、検査はよく間違えるということ。新型コロナウイルスのPCR検査でも、検査の仕組み上、インフルエンザの検査でも、陽性なのに陰性の検査結果が出る「偽陰性」に4割近くなってしまうという。


なので、検査結果がどうこうではなく、症状・状態像で、新型コロナウイルスに感染していると見立てて隔離措置をする、インフルエンザ治療薬のタミフルを処方するなどの、「正しい判断」が重要だと言う。


鬱病などの精神疾患もそうで、抑うつという症状があるからといって、すぐに鬱病と診断できるわけではない。抑うつという状態を見て、その状態であれば抗うつ薬の投与が望ましいといったような状態像に対する「正しい判断」が重要だ。


鬱病なのか、鬱病でないのか、新型コロナウイルスなのか、新型コロナウイルスではないのか、インフルエンザなのか、インフルエンザではないのか、といった白黒に固執せず、「状態」を見て、事実をしっかりと見て、適切な対応を判断する。


なぜなら、鬱病なのか、新型コロナウイルスなのか、などは結局わからないからである。わからないことに、あれこれ悩んだりしてもメンタルポイントの無駄遣いだ。だったら、その状態を見て、わかんないけどこの状態ならこの処方をしようという判断だけで終わらせてしまったほうが精神衛生上もすっきりするだろう。


正しく診断するという方法論に無理がある以上、正しく判断する戦略を取るしかない。できっこないことにすがるより、我々はできることで勝負するべきなのだ。





●日本人に足りない、引き算の発想


新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染と接触感染の2つである。


飛沫は人間からしか出ない。人間がくしゃみや咳をしたり、大声で話したときに飛沫が発生する。そして、飛沫が飛ぶ範囲は2メートルくらいという。


また、サージカルマスクは、隙間から飛沫が入ってくる仕様なので、飛沫侵入を防ぐ防御の意味はないとのことだ。


このことから導かれる正しい判断は、症状がない人間が防御のためにマスクをしても意味がないということである。街で散歩するのにマスクは不要だ。


また、接触感染を防ぐために、環境を消毒しても切りがないということだ。環境を消毒してもきりがないから、どこをさわっても手指消毒をすれば感染経路を遮断できる。


あらゆる場所や物を消毒し続けてもみんなが疲れるだけなので、接触感染を防ぐためには手指消毒を徹底しようというのが正しい判断になる。


この「みんな疲れるからやめよう」っていう発想が「引き算の発想」という。この発想は日本人に特に足りていないものと指摘されている。日本人はなんでもかんでも限界を超えてがんばってしまう。


意味のない、効果のないことをやっても、リソースを失うだけだし、脳のメモリを浪費して疲れるだけだ。そのため、この引き算の発想は、自分の身やメンタルを守るためにも重要な発想となる。




●非合理的な行動をしない、プロの考え方


ここは特に印象に残ったので、スクリーンショットを貼る(公開に問題があれば削除したい。)。


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このような経済合理的な考え方は、まさに恋愛工学と一緒ではないか。金融日記の哲学と同じである。


この経済合理的なスタンスは日本ではマイノリティだ。日本は和を重んじ、強烈な同調圧力がある。


ファクトとロジックに真摯に生きること。俺は、こうした生き方こそが、自分の人生に真剣な生き方だと思う。


自分の限られたリソースを合理的に使うことに全力でコミットする、し続ける、の繰り返しだ。










その他、第五章の「安全と安心」の考え方など、まさにファクト・ロジックと、認知・感情の部分を整理するという観点から大変参考になった。


何より、新型コロナウイルスから派生する様々な不安について、適切に対応できる素地を本書を通じて学ぶのことで、自分のメンタルヘルスが向上した実感もある。





現実を正確に理解して受け止め、自分の限りあらリソースを使って、どう現実に向き合っていくかを真摯に考え続けること。


こういう生き方をする以上、意味のないこと、無駄なこと、やっても仕方ないことにリソースを費やすことなど絶対にできないのだ。